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2019/06/18

ことば遊び

| by:管理者

ことば遊び

昔話と判じ絵(小学館)で紹介します。

  

《無筆》

『幾つになっても』(いくつになっても)     民話の部屋― 新潟県 ―

 昔、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが二人して暮らして
 いたと。

 爺さんと婆さんは、年が年とて、畑仕事がきつくなってきた。

 爺さんは、お寺の和尚(おしょう)さんに掛(か)け合って、寺奉公(て
 らほうこう)することにしたと。婆さんに、「俺(おれ)、寺で庭掃(に
 わは)き爺になることになった」と言うたら、婆さん、「あれ、そんじ 
 ゃ寺に住(す)むんかい」と聞いた。

 「そうなるな」

 「おらも一緒に住まっていいんかえ」

 「うんにゃ、いくら婆さんでも、女はだめだ」

 「爺さんだけかえ」

 「そうなるな」

 「どうでも、おらはだめかえ」

 「そうだ」

 「おら一人で、この家に残るんかい」

 「わずかでも、給金(きゅうきん)がもらえるんじゃ。いままで永(な
 が)いこと二人で暮らしてきたから、一人というのは心細(こころぼそ)
 いだろうが、辛抱(しんぼう)してくれんか。わしらには、これしかない
 んじゃ」

 「ンでは仕方(しかた)ないわいね。

 ンでも、寺にはいろんな人が相談に行くわいね。……女の人も行くわい
 ね。爺さん、めんどうみがいいから、すぐ仲好(なかよ)くなれる」

 「何を心配しとるか。いい年こいて」

 こうして爺さん、住み込みで寺の庭掃き爺になったと。

 五日たち、十日たち、二十日もたったころ、近所の人が寺に用があって行
 くから、と言うて婆さんの家に立ち寄ってくれた。

 「そんなら、持っていって欲(ほ)しい物(もん)がある」言うて、紙に
 包(つつ)んだ細長い物(もん)を渡(わた)したと。

 近所の人が寺へ着くと、爺さんは竹箒(たけぼうき)を持って庭掃きをし
 ていた。

 「爺さん、これ、婆さんから預(あず)かってきた。『大事(だいじ)に
 してくれ』って言うとった」

 「へえ、そうかね」

 爺さん、その場で紙包みを広げてみた。近所の人がその中味(なかみ)を
 見て、

 「何かと思うたら、棒秤(ぼうばかり)の折(お)れたもんでねか。こん
 なもん。『大事にしてくれ』ってか」

 「はは、いや、まあ、その、なんじゃあ」

 爺さんには、婆さんが何を伝えたかったのか、すぐにわかったと。

 「俺からも婆さんに持って行って欲しい物があるんじゃが、頼(たの)ま
 れてくれんか」と言うて、ちょいとの間、近所の人の見えない所へ行き、
 小(こ)んまい石を三粒(みつぶ)拾うて、紙に包んだ。

 「これを婆さんに渡してくれるか」

 「ああ、いいよ」

 「渡すときな『昨日も今日も明日も』と言うていたと伝えてくれんか」

 「ん、昨日も今日も明日も、だな。よしよし」

 近所の人は和尚さんに会って用をたし、帰ったと。そして婆さんに、爺さ
 んから預かった紙包みを渡した。婆さん、その場で紙包みを広げてみた。

 近所の人が、その中味を見て、「何かと思うたら、小石が三粒あるだけで
 ねか。こんなもん、何するんか」と言うたら、婆さんは、うんうん、とう
 なずいて、

 「おらには大切な物だ。これ渡さったとき、爺さん、何か言ってなかった
 かいね」

 「おう、そうじゃった。『昨日も今日も明日も』って、言うとった」

 それを聞いた婆さん、パァーっと笑顔になって、嬉(うれ)しそうだと。
 近所の人は、

 「棒秤の折れたのといい、小石三粒といい、なんだかさっぱりわからん」
 と言うて、首を傾(かし)げ傾げ帰って行った。

 婆さんと爺さんのやりとりはこうだ。

 大事にして、と言うて秤の折れたのを持って行ってもらったのは、「おれ
 ばかり大事にしてくらっしゃい」と言う意味で、小石三粒は、「昨日も今
 日も明日も、恋し恋し恋し」と言う返事だったと。

  いきがさけた、鍋(なべ)の下ガリガリ。




17:12

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